もがみ川感走録 第5 最上川舟唄その1

もがみ川は、最上川である。今日から「最上川舟唄」を中心に取材記事を書く。
体験を語れば、2つしか思い出せない。
歌碑を見た。左沢(あてらざわ=地名 難読で有名)の街はずれにある高台、”くの字”に曲がる川を見下ろす台地上にある。
現在よく知られている「舟唄」の作詞担当と歌手の2人が、この地の出身だそうだから、まず妥当と言うべきであろう。
しかし、それをもって、「舟唄」が1つであると言おうとしている訳ではない。
このような唄・労働現場で生まれた民謡は、いろいろヴァリエーションがあるのがよい。
2つ目の体験は、この耳でじかに唄を聴いたことである。
舟下り観光ツアーで、案内の船頭さんが、目の前で唄ってくれた。
最も下流に位置する川下り=俳聖・芭蕉が味わった船旅と同じコースと言う、それである。
民謡は、現地において・地声で聴くに限る。
次に型どおりの話題について、少しだけ触れる。
現在よく聴く「舟唄」と元唄またはそれ以外の”舟唄”との関係は、実はよく判らない。
それは専門家でもないから、至極当然だが、、、、
最上川舟唄」は、長々と・ゆったり続く”はやし”が特によい。
筆者の記憶が定かでないが、舟唄を絶賛した専門家が居た。
テレビに音楽番組のコーナーが定着し始めたいわゆるTV放映初期の頃に活躍した、高木東六(1904〜2006 作曲家、クラッシックから歌謡曲まで幅広い創作活動)である。
彼の強調した説に、世界3大舟唄なるものがあり。ボルガ・ホフマンと並ぶ名調子とされた。
3大〇〇は、列島人の好きな物言いであり。説得効果において最も効率のよい説話術らしい?
彼の説はこの「舟唄」の成立ちからしてほぼ妥当する。
最上川舟唄」は、NHK仙台支局の開設に絡んで、昭和7年に手直しか・改作された・いわゆる新・民謡?だ。
音楽専門家の仕事だから、生成りの民謡に比べて格段に音楽性が備わっていよう。
素人の筆者がチェックの真似事をするとしたら、ただ1つ。
悠然たる曲想と川の売りである急流のイメージとの間に、違和感を覚える。
その売りである急流説もまた”3大話”であり、恐縮至極だ。
印刷物に拠れば、富士川静岡県>・球磨川熊本県>と並ぶほどの凄さだと書いてある。
観光資産はとにかく話題豊富。質より量とは言わないが、話題豊富の方が受るらしい・・・
河川の急流指標?に、河況係数なるデータがあるらしい。翻訳語である。
1年間における、最大流量と最小流量との比であるから。価が1であれば、春夏秋冬を通じて・鏡のように滔々と流れる穏やかな・大河であり。数値が大きくなるほど・目まぐるしく変化する”暴れ川”となる。
だが、話はそこまでである。
河況係数ランキングを表で示して、だから云々と論ずることにさほどの意味も無かろう。
ここで思い出すのは、日本における砂防の父=J・デ・レーケ(1842〜1913 オランダ・治水技術。在日期間=1873〜1903)のことである。
お雇い外国人=ざっと3千人とか=の一人とするには、彼の達成した事業の大きさと滞日期間30年と言う腰の据えようからしてそぐわない。よって、オランダ生まれの治水技術者と言うべきであろう。
彼の日本における業績は、あまりに豊富過ぎて。絞り込みに窮するほどだが、竣工から百年を経て評価が固まると言うほど水文技術は厳しい。
ここでは粗朶沈床工法・三国港の港湾整備・木曽川など濃尾3川分流の3事業を掲げるに留める。
ホンモノであった彼が、初めて日本の川を見た時のエピソードがある。
「これは川ではない。滝だ」と叫んだと言う
要するに、列島の川は、世界に希な多雨な環境の下、川幅が狭く・流れが急なのである。
とまあ、格別に最上川のみが,急流なのではない。ことを明言しておきたい。
問題は、急流である事実に加えて。奇岩地帯の存在=船底を破壊する暗岩礁の恐ろしさだ。
最上川舟唄」の中に、以下の歌詞がある。
    碁点 はやぶさ 三ヶの瀬も  まめ<達者>で くだったと 頼むぞえ
    あのへな<娘> えなけりゃ  航海乗り<ママ>など すねがったチャ
碁点 隼 三ヶの瀬は、前稿で採上げたとおり。村山市の碁点橋の下流に横たわる3つの難所である。ここにも川下りがあり、高名な難所である。
最上川の難所に関しては、「最上川小鵜飼船と船頭衆の生活」がある。
著者は、柴田謙吾<1912年 山形県生まれ> 現地で住民に取材したり・船頭衆から聴取ったことをベースに集約した力作だ。
著書で66ヵ所の難所について解説し・そのうち9ヵ所を大難所としている。
上掲3難所とも当然に出現するし・碁点 隼の2つが大難所扱いとなっている。
そろそろ本日の紙数が尽きるので、歌詞にイチャモンをつけて、筆を置きたい
『こうかいのり』なる音への当て字間違いを指摘しておく。
”航海乗り” なる言い方は、少し無理があるのではないだろうか?これは筆者の感じ方だから、これ以上は論じられないが、、、、
著書名にあるとおり「小鵜飼船=こうかいぶね』の「船」1文字が脱落し・「乗り」がくっ付いたもの、こっちの方が無理無く・リーズナブルな綴り字と考えたい
さて、その小鵜飼船とは何であるか?
それは明日の宿題と致しましょう