おもう川の記 No.21 日橋川・初節

川面を眺める散策シリーズ。今日は阿賀野川の最後の上流=日橋川(にっぱし・がわ)を語る。
これまで河口から近い合流点支流を先に採上げることとし、只見川→阿賀川の順で書いてきた。
さて、会津地域を概観する地名語は何だろうか?
なるべく語数が少なく・それでいて全体のイメージを適確に表す言葉が欲しい。
ところが平成の大合併により、多くが会津若松市喜多方市に併合され。
意義ある地名は、ほとんど失われた感がある。
経済活動と便利さのみを追求する都市指向パラダイムの下では、地域本来の個性や独特の風土性が、否定され・消滅してゆくのだろうか?
これはあくまでも筆者の独断に基づく感懐でしかないが、「にっぱし・がわ」のような地名に接すると。実に困ってしまう。
この川の名=難解な詠み・想像もつかない由来に出会うと、その解を求めて右往左往するばかりである。
気を取り直して記事進行。
会津地域を代表する地名は、おそらく河沼郡(かわぬま・ぐん)と耶麻郡(やま・ぐん)の2つであろう。
いずれも遠く律令時代に成立した古い地名であろうか?
まず「かわぬま」である。
”かわとぬま”から描ける地形=いわゆる大河川と増水時の氾濫原と言えば、只見・阿賀川の流域が浮かんでくる。
念のため、只見・阿賀川=2つの大支流河川の源流地帯を列記してみよう。
東から時計回りに群馬・新潟県境付近まで並べてみる。
 荒海山<山頂標高=1581m>〜帝釈山<2060m>〜孫兵衛山<2064m>〜
 黒岩山<2163m>〜鬼怒沼山<2141m>〜物見山<2117m>〜
 至仏山<2228m>〜平が岳<2141m>〜劔倉山<1998m>
いずれも日本列島の背骨にあたる高山列だ。
山名は、筆者が適当に抽出したが。想定される分水嶺に当る山脈列であって、現行県境を構成する山とは必ずしも重ならない。
只見川については、川筋そのものが一部の県境でもある。
それは筆者には理解しがたい分界設定だ。
本来のあるべき分界を分水嶺に置けと言いたい。
会津盆地西側の山脈と言えば、越後山脈(=概ね現行の県境設定)がある。
先の節でも述べたが、越後山脈は列島背骨山脈ではない。
背骨山脈に当る高山列は、会津盆地の東端にあり・中通り会津地域とを画しつつ・福島県内を南北に貫いている。
筆者が提唱する・分水嶺に拘る山脈列は、越後山脈と一部が異なる。
飯豊連峰三国岳(1631m)から南に向かい・枝折峠(しおり・とうげ 新潟県魚沼市国道352号の最高地点1,065m)を横切って・越後三山中ノ岳(2085m)に向かう山脈列(=分水嶺そのもの)である。
次に「やま」である。
会津で”山”と言えば、やはり磐梯山であろう。
会津人でない筆者のやや自信ない主張だが・・・
四方を高山脈列に囲まれる会津盆地でも、眺望における孤立峰としての磐梯山は、他の追随を許さない強いインパクトがある。
山の字を用いず、耶麻郡であるのは、音=詠みを優先した表記法であろう。郡名はやや広い地域を占める地名であるが、「やま郡」は列島に多出する地名の1つである。
九州から東北まで偏りなく存在する。あの有名な邪馬台国論争をも呼び起こした。
会津にも郡名のみならず・山都なる街もあるから。その主張への参加の余地なしとしない。
さて、本題の日橋川だが、宝の山と民謡に謳われる磐梯山との関係を述べる必要があろう。
磐梯山の南から西に面した山裾を流れる、麓の川である。
この麓は、北山南水と括れる最も神聖の度合いが高いゾーンである。
「にっぱし」なる川の名が、何とも腑に落ちない。音・訓の混交詠みであることが第1の違和だ。
第2の違和は、”にっぱし”に相当する普通名詞が思い浮かばない。よって命名の経緯が読めない。
せめて類似・近縁の固有名詞があればよいのだが・・・今のところ、川の名の由来を語る資料が見当たらず、とても心細い。
奥の手は、アイヌ語地名と措定して、意味を採ろうとする努力だが・・・
アイヌ語の川はナイとペツだとして、その地形を表す用語を切離し・”川”に置換えたとしよう。
語幹の「ニッパシ」に該当するアイヌ語地名は無い。
「二」「パ」「シ」と3分割しても・「ニッパ」「シ」でも・「二」「パシ」分割でも、意味はとれそうにない。
音韻から「にっぱし」に迫る努力は、稔らずだが・放棄したいと思う。
でも余談はつぶやく。
日本語の特性から考えると、発音しにくい音字をわざわざ選んで、川の名にした感じがする。
このような決めつけが、筆者につきまとう独断と偏見のフュージョンだが・・・・
発音しやすい順に50音表は並んでいるとの前提に立てば、
頭首音の「二」は、第5行=ナ行の2列目の音だから、順位は低く・発音しにくい部類だ。
「パ」に至っては、半濁点表記語であり。最も発音しにくい部類である。「ラ行音」は、第9行グループ=最後の子音で、「パ行音」は限りなくそれに近い存在だ。しかもどちらも固有日本語の語頭音には本来存在しない希な発音である。
序でだが、「ラ行音」の前と後に置かれる第8行「ヤ行音」と第10行「ワ行音」は、古代に使われ・今は忘れ去られようとしている母音グループ音である。
よって、「ラ行音」を第9行グループ=最後の子音としたわけだが、日本語の歴史を考えれば、母音の重要性は子音のそれと比較にならない重みがあるのだ。
とまあ、筆者による勝手な決めつけは、ここら辺で打切りとする。
河川延長をウィキペディアや事典で調べたら、20kmと25kmの二通りがあって困った。インデックス換算100:125となるから、到底誤差の範囲内と言えない。
まだある。日橋川の形成を磐梯山の噴火によるとする説とそれを疑う説とがあるらしい。
以上2つについて、筆者は決めがたいので、並列・併記して記述進行とする。
これまで筆者は、この川の流域を僅か数度しか通過してない。更に困ったことに、この川の記憶が全くない。
鉄道・道路・高速道路も使ったが、覚えている川の景色がない。おそらく印象を薄める何か背景があるかもしれない。
地観として猪苗代湖磐梯山の景観印象が強過ぎるかもしれない。
日橋川は、猪苗代湖から流れ出す唯一の自然河川であるが。上流・流出点<湖面標高514m>に対して、下流・合流点<喜多方市塩川町会知・地内で本流阿賀川に注ぐ>標高が約300m低い。この比高差を利用して早くから水力発電所が設けられた。
20乃至25kmの間に、6つも発電所が密集立地するそうだから、景観としては仮に目撃していても記憶に残りにくいものであろう。
紙数の都合で、前・後編に分割します