か麗の島 No.16

北投温泉入湯記の続きだが、前稿の予告に基づき温泉と核物理学との間について論じたい。
北投温泉と秋田県玉川温泉とに共通する効能は、ラジウム鉱石に由来すると言われる。
ありていに言えば、温泉の効能など、1つに帰すべきではない。
信仰に近いものまで含め、あらゆる薬石に通ずるもろもろの効能ありと言うべきであろう。
玉川温泉は、希望が失われた重症ガン患者のメッカとも言うべき場所である。
筆者の乏しい体験記を、前稿で紹介したが、メッカとは巡礼が向かう地の意味だ。
巡礼とは、最後の旅立ちである。
寿命が余命に切替る頃に、人は決まって巡礼に出る。
巡礼の向かう先は聖地と決っているが、列島の定番は”しこく”とされる。
四国とも死国とも書ける、ズバリ聖地である。
巡礼は、生還を偶然と考える「死出の旅路」そのものだから・・・・
では、北投温泉は、かの地で、重症ガン症病と関係があるだろうか?
そこが肝心だが、筆者は現地語を解さないので、何とも決めかねる。
この温泉が発見された1894から摂政殿下・皇太子ヒロヒトが行啓した1923までの約30年間は、概ね核物理学の黎明期と重なる。
ラジウムの発見とその放射線を放射する理屈が解明されたのは、その30年間のうちであった。
この当時つまりヒロシマナガサキ原爆前夜は、科学の持つ万能の力が人類に明るい未来を約束する新時代の到来と騒がれた。
この科学が光明とともにあった時代は、凡そ1850頃に始まり1940頃までに終った。と筆者は
措定する。
そして、以下に語るストーリィーには、3つのキィーワードが必要である。
ストーリィーのまとめを先にしておこう。
1940頃までに終った光明溢れる科学万能時代は、1945年8月ヒロシマナガサキで起った悲劇をもって突然に終る神話であった。
原子の火がもたらす光明は、突然に無間(むげん)地獄に暗転する「偽りの光」であった。
人類はいつもだが、まず神話に踊らされ・アトになって厳然たる真実を知る・まことに愚かな動物である。
以上が、以下に語るストーリィーの結末である。
さて、ストーリィーを始めよう。
まず、3つのキィーワードを羅列しよう
1、 ラジウムの発見
2、 ウェルズが予告した原子爆弾
3、 世界大戦が、1度ならず。ナンと2度目が起った
閑話休題
ここまで来ると?、”老年男の今頃?台湾訪問記”が、人類史の1頁であることがお判り戴けたことでしょう?
〔 天の時は 〕
北投温泉草創期の30年間が、1850〜1940の科学万能幻想期に含まれており。
ヒロシマナガサキ前夜における人類と科学の蜜月時代のうちにあった。
〔 地の利は 〕
北投温泉地区はラジウムを産出する希少鉱山地帯である。
ラジウム発見者であるキュリー夫妻が命名した新語=『放射能』を発する希少金属
放射線発生メカニズムを解明する研究の過程から核物理学が誕生した。
〔 最後は人 〕
ヒロヒト殿下が視察先の北投温泉に入湯したかどうか不知だが・・・・2度目の世界大戦で陛下が何らかの指導的関与をしたことは明らかだ。
その2度目の世界大戦では、原子爆弾が実際に使われてしまった。
原子爆弾は、ウェルズが書いたSF小説「解放された世界」の中に、始めて出現した。
彼が作品を発表した時、そのことに注目した人は殆どいなかった。
しかも発表時期は、最初の世界大戦が勃発する直前であった。
その頃 最初の世界大戦に続いて、2度目も起ると予想した人がいたろうか?
しかも 彼が予告した核分裂による膨大なエネルギーを利用する爆弾が、小説発表からほぼ30年後に、実際に使われると。誰が予測したであろうか?
過ぎてしまった現在から回顧すると、過去の出来事は。
向かうべきでない方向に、吸込まれたように、決まって猛進する。
軍事と政治と科学とが癒着するから、殺戮の渡合は更に深刻さを増してしまう。
先ほど使った蜜月時代なるコトバは、正しい言い方では無かったようだ。
正しくは、科学史において・進化とはまったく逆のベクトルに進んだ・退化の時代であった。と言うべきである。
以上のことを風呂に入り・皮膚をこすりながら・考えていたら、紙数が尽きなんとしている。
続きは明日やります