にっかん考現学第24 あすかの11

万葉集の存在や成立の事情は、文学資料としても、文化人類学史料としても、言語学資料としても、他に例の無い、極めて特異であることは、夙に知られている。
直近の30年に限れば、東アジアの空間域の広さでの相互の文化比較が進化して来たこともあり、ユニークさの度合いも相当緻密に分解され、科学的合理性をもって客観的に把握されてきつつあるようだ。
にもかかわらず、他に例のない、その特異性については、いっそう際立つ印象が強い。
従って、本稿も引き続き万葉集である。既稿7月1日付のNo.22あすかの9で、枕詞プラス地名の組み合わせとして。歌の本文に出てくる『飛鳥 明日香』と万葉仮名表記する事例=巻1-78、巻2-194と196の3つの歌を紹介したが、今日さらに1つ補足する必要が生じたので、追加報告することとしたい。
巻16-3791の長歌だが、右側<前後とも略>に「飛鳥 飛鳥壮蚊」
     対する左側<前後とも略>に「飛ぶ鳥の 飛鳥壮士が」=
     左側ルビに「とぶとりの あすかおとこが」   とある。
つまり、『飛鳥 飛鳥』と同文字が重複する万葉仮名表記である点において、前3例と異なる事に注目されたい。
因みにこの長歌には反歌2首-3791・2が伴うが、内容は老いを迎えた男の人生回顧であり、風俗服飾研究に資する材料となろうが、本稿のテーマである地名の考証に縁がないとみて立入らないものとする。
さて、次に飛鳥の地について論ずることとしたい。
現在の奈良県明日香村であり、ここは保存地域として知られており。その背景についてあらためて論ずることは少なく、ボリュウムの面からも回避したいのだが、関心ある方のために比較的ポピュラーな著書を2点紹介しておく。「飛鳥とは何か」梅原猛著・集英社文庫1986刊(原著1980・再編1982) 「飛鳥」門脇禎二著・吉川弘文館2012年6月刊
飛鳥の地域性について一点だけ指摘しておきたいことがある。前稿で見た通り、万葉集だけを取上げても出現例43件のうち10件が「宮・古き都・〇〇宮の部分」として頻度多く出現する。
古事記日本書紀を覗き見して概観しても、宮が置かれた(=足掛け100年間・精密に累算すると33年間)ことは事実であり。飛鳥を日本の故郷とする見方<前掲の梅原著書29頁冒頭>は否定しないが、現在感覚の都と解したり、首都をイメージしてはならない。
それに、宮に住まいする主を単純に天皇と解すべきでもない。
さらに、国としての成立と安定が、飛鳥時代にまで遡らせることができると解してもならない。
科学合理性に見合った妥当な世界観をもって、民族の足元を見直せば。宮とはある社会集団における政治的リーダーが、居住する建物を意味するだけである。
都と呼べるには、都市機能の継続固定が必要であり。主たる政治リーダーの定住や血統的家系の連続などにより、空間継続性が維持されるのは、やっと平安京(西暦794年に遷都なる)以降のことである。
提案仮説の背景を簡略短述すれば、西暦645年に起きた政変を「大化の改新」と呼ぶような大国指向・過早成熟な強引史観から脱却すべきだと思うからである。
その一言である。
今日はこれまでとします

飛鳥―その古代史と風土 (読みなおす日本史)

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飛鳥とは何か (集英社文庫)

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