生泉流No.10 金星

* ヴィーナスを  六と六とで  空見上げ  ろくに判らぬ  日面経過
[駄足] 今日は、2012年6月6日である。序でに筆者は満66歳である。
6に因んで、12時12分に太陽を見上げたが、金星の太陽面通過は、はっきりと確認できなかった。
前回の天文事象は、4月21日の金環日食であった。この時は、現住所が部分食ゾーンであったから、5日程度と往復距離約800キロを走行して、金環日食ベルトのほぼ中央付近に位置する三重県御浜町まで出かけ。千載一遇の雲の切れ間に出逢い、成果を得た。
今回の金星による日面経過は、自宅の前の庭にひょいと出る程度の気楽さだったからか、確信に至るほどの視認成果とはならなかった。
相手がヴィーナスだけに、”きんぼし”獲得とならず残念。まだまだ四股の踏みようが足らないようだ。
[駄足の蛇足]   金星の触と月の食とでは、「しょく」違い。
地球と太陽の間に別の星が入るだけなのに何故文字が違うのか?
素朴な疑問を持っていた。
金星の触を見たいと思ったのは、66年の生涯で、何故か?始めての事。
暫らく考えた。
前回の時は、東京に住んでいた。その地で2004年6月8日の午後に起っているが、全く記憶にない。
暫くして、やっと思い出した。
キャプテン・クックの第1回航海におけるミッションが、「金星の触」を観測することであった。
いささか長いが、思い出したついでに、その経緯を述べておく
   35年くらい前から、年次研究と称して毎年1つのテーマを掲げ。その成果を要約して翌年の年賀状に
   記述して、知人に送りつけるというような事をしていた。私の半生では、インターネット・ブログ前夜   の一側面であった。
   2005年のテーマを海生民族とした。読書におけるベース資料は、キャプテン・クックの航海日誌であっ   た。因に、航海日誌の英語発音はブログである。
   その内容に触れる事は困難なので、代わりに?2006年の年賀状を転載する。
       産業社会を招いたベースには科学革命と言うパラダイムがあった。その一翼
      を担ったガリレイ(1564〜1642)とニュートン(1642〜1727)は高名な偉人
      だが、これにキャプテン・クック(1728〜79)を加えたい。
       彼は英国が太平洋に派遣した科学調査艦エンディバー号の艦長である。
       クックは貴族の出自でなく正規の教育を受けてない海軍士官ながら太平洋
      の統合的科学調査を指揮した。3度の航海の後、科学研究はそれまでの個人の
      業績から集団のそれへと、さらに産業社会や技術と近接する道が開かれた。
       3人の時代はほぼ切れ目なく連続する200年だが、このあいだに宗教の支
      配する中世が終わり、科学が花開く近世が始まった。
   以上が、原文そのままの転載である。
   葉書の中に収めると言う字数の制約があるものの、今日読み直しても、物理学誕生前夜の、健全な科学   の時代を彷彿させるものがある。なお、彼の4度目の航海は、彼を故郷の地に戻さなかったから、彼の   立場に立てば、完結した航海は3度となる。
キャプテン・クックのエンディバー号に乗艦しての第1回航海は、足掛け2年11ヶ月(1768年8月〜 1771年7月)に及ぶ太平洋探検であった。南方大陸の発見など秘密に属する命令も含まれていたが、第1の指命にして表向きの目的は、タヒチ島付近において1769年6月3日に起るであろう「金星の触」を観測することであった。彼の立場は、英国王立協会・国王・議会・海軍から委嘱された観測員であった。
タヒチについて、少しだけ寄り道する。欧州人としての最初の到達は、英国海軍のS・ウォリスによって1767年6月に行われ、そのことは68年5月の帰国(世界一周)によって報告された。クック出帆の直前3ヶ月前である。なお、同島はフランスに帰属したのだが、それは寄り道の寄り道になるので割愛する。
さて、筆を置く前に一言。「金星の触」を観測する意味だが、当時の天文学界は太陽までの距離を知る事が大きなテーマのひとつであり、金星の触を観測して太陽視差を求める事が提唱されていた<提唱者は彗星で有名なE・ハリー。英国天文学1656〜1742>。
現代ではその意義は失われたが、金星と地球との軌道面の傾きがあるため、金星の太陽面通過は、きわめて珍しい天文事象である。簡略には243年に1度の観測頻度とか?
それに、視認成果できんぼし獲得を逃した背景もまた、太陽と金星の見かけ上の差異にある。大雑把に言うと33対1、あまりに小さ過ぎる。
因に、先般の月だが。太陽との見かけ上の差異は、人類史的時間に限ればほぼ無いと言う。現実の大きさはほぼ400対1なのだが、月の周回軌道がまだ地球に近いので、アト暫く?の間、皆既と金環の両方の「食」が続くらしい。
次回は、105年後の2117.12.11だから、今歩いている殆どの人類は見れない事になろうか?

クック 太平洋探検〈1〉第一回航海〈上〉 (岩波文庫)

クック 太平洋探検〈1〉第一回航海〈上〉 (岩波文庫)

クック 太平洋探検〈2〉第一回航海〈下〉 (岩波文庫)

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