サイト君 第31話

サンクの国に生まれ育ったサイト君が、隣国メゲーヌに移り住んで既に45年になると言う。この間時々に郷還りしており、彼には2つの国に知己友人がいる。
もちろん、先の稿で述べたように彼はその事をメゲーヌでは積極的に語らないので,サイト君が外国人であることを知るメゲーヌ人は少ない。他方サンクの国では、彼が長期の外国滞在者であることを知らない人は居ないし、ごく普通の人の当り前の事なのだと言う。
そもそもサンクには,戸籍に当る市民登録制度が無いのだから、人事に限って内と外とを区分する根拠となるものが無い。
要するに、外国はまだあるが、外国人なるコトバも概念も無いと言う。
因みにヨーロッパでは、人種・民族の話題は憚れるらしい、旧ユーゴ圏で民族浄化を唱える紛争が起った際に、NATO軍が空爆による紛争介入を行った。
その背景に欧州人とでも呼ぶべきスーパー・レイシズム*が定着したからだろう。平和の配当の好例の一つと言えよう。かの地では父と母が出逢った土地で自分は生まれ、父母も民族もそのまた父と母つまり父方・母方の祖父母の人種もよく判らない。それを問い、明らかにする事に拘らない人が多い。平和なヨーロッパが実現したことの証しと言えよう。
多くの欧州人が、わざわざ舟に乗って大西洋の荒波を越えて移り住んだ新大陸の北にあるボウ国は、もっと省略され、戸籍が無いのだそうだ。
無駄なモノは消える、戸籍は課税と徴兵の基礎資料でもある。
*注=super racism 。当面の翻訳として人種・民族超越思想潮流としたい
今日はこれまでとします