サイト君 第22話

サイト君が言う。彼の故国サンクとメゲーヌ世界とを比べた場合、最も大きく眼に見える違いは交通だと。
ヒトとモノとを運ぶことは、人類の歴史においてかなり興味のある課題である。足元の国にある正倉院の収蔵物などは、様々な見方が出来る。
例えばシルクロードの時空軸範囲を示す証拠とみる考え。何時誰が何処からどこまで何をどのようにして運んだか?推論の手がかりとして。またあの地の通史的文化成熟期は隋・唐の頃がピークであったとする材料にもなる。
その輸送が著しく変化したのはこの250年であると ー既に第13話で述べたがー 誰よりも速く・誰よりも多く・そして誰よりも遠くまでと考え行動するパラダイム。この個人利得を徹底・強化する競争原理は、人類を含めたあらゆる生命体を絶滅に導くもう一つの危険な道でもあった。
このパラダイムの根本的な欠陥は、エネルギーの有限性を前提にせず浪費する事で地球環境破壊を招く点にある。
このことに着眼したサンクの人々は、人類共通の利益のために輸送に頼らない生存システムを構築しつつある。
知的財産権を経済対価に直結させない形で公共の知的財産として位置づけ、発明者の利益を保護しつつ公開情報として活用させる事で、物質とエネルギーの節約・温存を図ることとした。
そして具体的成果をみつつある。
情報ハイウエイ構築は、現物輸送の量的削減を招き、着実にエネルギー・人口を減らし自然の回復に寄与している。
サンクの国で眼に見える光景は、折畳み4輪自転車によるヒトとモノの移動である。乗用車もトラックも高速道路も速やかに消えてゆく景観になりつつある。
そもそもシステムとしての輸送は、通史的には軍事技術でしかなく生物の共存を害するのみで利する事は無い。
輸送これまたパンドラの箱の一つであった。
貿易と輸送は表裏一体だが、リカード*が正確に指摘したように貿易の繁栄は、世界規模で伝統産業を衰退させ古い伝統を保持する地域文化を絶滅に導く。過疎問題である。
この度の地震津波は、原発が生産するエネルギーを遠隔の地に輸送する構図をさらけ出した。
中央と地方との関係、一見単なる政治的な仕組と思われていたが、実は経済活動でも収奪する・されるの関係であったことをあからさまにした。
イマニュエル*が指摘した世界システムの構図は、この狭い列島においても貫徹していた。
*注1=D.Ricardo(1772〜1823)。英国の古典派経済学者、主著「経済学および課税の原理」。ここでの指摘とは国際貿易における比較生産費説を指す
*注2=I.Wallerstein(1930〜)。米国の社会・政治経済学者、コロンビア大学教授、主著「近代世界システム(1974)」=川北稔訳1981岩波書店刊行
今日はこれまでとします