耄想陸行録 第17稿

* 尖閣島  千尋の深さか  せん隠す
〔自註〕釣魚島と尖閣諸島とは、同じ1つの空間域を示す2つの呼び名である。大陸と列島と2つの主権国が、それぞれ領有を主張する東シナ海の島である。
国際政治の問題は、思った以上に懐が深いことが多いから、触れずに放って置くに越したことはない。
とりわけ、9.11同時多発テロ事件発生以来、21世紀は望ましい方向と逆に廻り始めたので、一層触れたくないと思う。
リーダーの選出を誤ったことが痛い、この10年経つ間に、国際社会は最近100年くらいの歴史体験をドブに捨ててしまった。
今年は、日韓併合100年に当るが、仮にこの100年の積み重ねがチャラになるとしたら、このリアル2010年は則ちチャラ1910年にあたり、日露戦争第一次世界大戦との間に位置することになる。
リアル1910年におけるユーラシア大陸東部の軍事徴発国は帝国主義ニッポンであったが、チャラ1910年では攻守トコロを替えて、赤色朝大陸が緊張台風の渦になる事態が予想される。
現にこのクニは、航空母艦の建設に着手しており、その経済国力からして既に西太平洋の波はかつてない程高まっている。
かのクニは、1840年アヘン戦争以来「眠る敗け獅子」であったが、すっかり眼が覚め立上がり始めたようだ。
さて所謂領土問題だが、先に結論を言うと、全くもって解決策は無い。
戦後50年くらいは、力に拠らない解決ルールが漠然と出来るようなムードが国際社会にあった。多くの植民地が独立し国際連合<UN>に加盟して、ラウンドテーブルに着き多数派となり、先に光のある動きが見えていた。
元植民地の独立は、アフリカとアジア地域に集中した事は言うまでもない。
ここでの特筆記事、光明ある話題は2つ。
南アフリカ連邦アパルトヘイト体制が消えた直後、大統領に就任した指導者マンデラ氏は、旧支配層に対して報復をしなかった。
もう1つ、アジアのネシアランドネックレスにある東ティモールで、隣接某大国の軍部が暴発した時、国際社会は直ちに暴力排除のために立上がり、援助の手を差し伸べた。
この2つを教訓にすれば、武器の力に拠るゴリ押し大国主義は、国際協調監視の下で消えて行き、文治主義的平和処理ルールが新しいシナリオとして出来上がるはずであった。
しかし、光明は暗転した。
その動きをチャラにしてしまったのは、21世紀初頭に選ばれてしまった指導者達であった。
ニューヨークの仇をバクダッドで討とうとする無茶を唱える者とそれを直ちに支持した都合3人だ。
USAプリッツェルプッシュ・UKブレル・列島コイヅの3フーリッシュである。
あえなく倒された者、これもまた選ばれた指導者であるが、イラクフセインは、はったり虚言でありもしない大量破壊兵器をさもあるかのように言い繕い、墓穴を掘った。
悲劇のヒーローは、あえなく処刑された。
9.11テロとイラク戦争とは、どう無理に絡めても繋がらない。だが、3フーリッシュは、フセインを血祭りに挙げることで、9.11テロにケリを付けたことにしたかったのだ。
全くもって、自己満足の茶番、私益誘導のでっち上げ戦争だ。
指導性を持たない者が権力を握った場合、つじつま合わせだけの決着=識者にとっては目眩ましパーフォーマンスでしかない=に終始する例は、人類史に溢れている。
このような決着は、軍産複合体が潤う経済構図だから、私益誘導そのものだ、、、
そもそもテロを戦争で決着できるはずがないのだ。イラク戦争終結の後、イラク全土で徹底調査を行ったが,開戦理由となった大量破壊兵器はついに発見されなかった。
さすれば、理由なき戦争を始め、あたふたとフセインを処刑した3人は、戦争犯罪人、極悪人である。
戦争犯罪人として、それぞれの国内でそして並行して国際社会においても、しかるべき訴追があって当たり前だと思うが、報道によればそのような動きは全くない。
どう考えても、この10年世界の常識は、麻痺してしまった、イラク戦争という人類史スケール規模のイカサマを見逃してよいものであろうか?
大いに疑問だ。
こうして、100年の人類共有の知的資産がチャラにされ、100年前の国際秩序に戻されてしまった。
チャラ時代の国際社会は、力がすべてだ。理屈などどうでもよい、掠めとってしまった強者にのみ、正義がある。
力を持たない弱者は沈黙するしかない。
何とも情けない世界大戦勃発前夜の様相に戻ってしまっている。
筆者は、そのことを残念に想う者の一人だが、既に述べたとおり、こと領土絡みは、ベストな解決策が乏しいので、暴発せず速やかな沈静化を待ちたいと思うのみだ。
冒頭において、この課題は懐が深いから放置したいと述べた背景は、5つ程度に絞るとこうだ。
1、領土とは、人類史上いつでもどこでも常動多変
である。地続きの国境感覚を持たない民族=外交音痴が最も苦手とする課題だ。
2、島、それも政治中心から遠隔の地にある陸地は、具体的かつ即物的な認知になじまないため、過度に感情的な政治課題となりやすい。
3、領海の決め方は、確としたコンセンサスが確立していない。思いつくまま回顧すると、3海里、12海里、200海里、経済水域などが浮ぶ。有史以来異なる複数の決め方をそれぞれの主権国がめいめいの領海を主張しており、未だ国際外交の通念として一つで縛るルールは存在しない。
4、島の存在感が増したのは、比較的最近の事である。
 ①、経済水域算定のキーランドである島は、海底資源確保の基盤として近年急激に脚光を浴び始めた。なお、先般BPオイルのフロリダ沖深海油田で採油パイプ破損事故が発生し、史上最悪の大規模海洋汚染が生じた。海底資源は掘削から輸送までほぼ全局面で遠隔海域特有の大規模環境トラブルとなる懸念がある。
 ②、航空輸送が商業ベース化してほぼ半世紀だが、島は観光資源のニューフェースとして花々しく登場した。船しか連絡手段が無い時代が長かったが、この5〜60年で島は飛行機によって始めて認められ、価値を増大した。
5、島は古くから変らず、渡り鳥渡洋の足がかりであり、気象観測や情報通信の拠点であった。
所在位置、地形、面積などにより利用価値は千差万別だが、漁撈基地や沿岸警備、戦略空軍の中継拠点の意味もある。
以上周知の事を5点概述したが、第4の経済水域との関連で、大陸棚について少し触れる。
コトバでは一語だが、大陸棚は巨大河川により形成される地形物であるから常動拡大している。
海中の大陸棚を海面の船上から目視することは難しいが、尖閣諸島のある東シナ海に注ぐ長江の場合も、その源流はヒマラヤ山塊であるから、毎年のように大陸棚は拡大し、常に海の深さが減少している
と考えられる。
領海を算定する距離にしても、地球には対岸国と僅か3海里と離れていない例もある。細かい話で恐縮だが、沿岸砲の到達距離限界から決められたと言う歴史的経緯があり、軍備競争や技術水準の差異によって、彼我の優位不利は一目瞭然であった。1863年鹿児島錦江湾で起った薩英戦争では、新鋭アームストロング砲が圧倒的威力を発揮したのであった。名著「遠い崖」を参照されたい。
さて、そろそろ句の意味を解き、筆を置くこととしたい。
千尋は型通りだが、両腕を胸一杯拡げて両手先の間にあるロープの長さが一尋<ひとひろ>だ、海族は航海の間じゅう水深を測り、乗船の座礁を回避するため測深儀とロープは必携なのだ。
ここで尖閣諸島周辺の海深が、千尋ちひろ」あるかどうかはどうでもよい。
核心は、この国境を廻る紛争が、何故この時期に起り、どうして予想外に沸騰させるほど大陸サイドが強硬路線を貫き通したのか?にある。その隠された「政治路線=せん」の「いと=意図」がよく見えないのである。
見えないことに絡めて、句には余計な遊びの要素を折り込んだ。
ちひろもせんもある有名なアニメ映画のタイトルを構成する人名であり、せんといととは縁語である。
以下に、この度の尖閣諸島問題の周辺課題を幾つか掲げ、読者の方々にその可能性について解きほぐしてもらいたい。
もし、貴殿が大陸と列島の二国間問題としてのみ捕えていたら、それこそ「神隠し」に遭ってしまうことであろう。
第1、5周年ごとに、古い思い出は盛上がる。列島敗戦65年目は、大陸にとって対日勝利65年の区切りでもある。
第2、前回とは、2005年。60年目に当る。現職首相のコイヅが、靖国神社を参拝したかどをもって、民衆規模で沸騰した。
第3、2005年以降、大陸でオリンピックと開催中の万国博覧会が開かれ、大陸の国際知名度と大陸民衆の国際社会へのデビュウは各段に進んだと考えられる。
第4、赤色朝大陸特有の体質として、権力側による大衆操作・誘導があると指摘する識者がいるが、果たしてこの状況は、5年前も今日只今も変化なしと見るべきか否か?
第5、対する列島では、この時期重なって平行進行していた与党代表者選挙の帰結と微妙に絡む事態の推移が見え隠れする。
敗退した年かさのオガワ氏は、井戸掘り側に列する政治人脈の人物だそうだが、親大陸派の後退とみなされた可能性がある。
第6、8月17日共同通信の配信報によると、新大陸独善大国のオッパマは、前政権の政策を見直した。
従来の安保条約の適用ゾーンの中に尖閣諸島は含まれていたが、見直しにより尖閣諸島は明示されなかった。
第7、廻廊半島北半は、形式のみ労働者支配の共和制で、実態は親・子・孫の三代世襲の古き悪しき赤色系王朝独裁体制である。
北半部のこの個人独裁は、根本において大陸の存立理念である民衆政治による政体と噛合わない。
しかも、北半部は、国として既に事実上破綻状態にあり、大陸の全面的支援で当面の体裁を繕っているだけだ。
では、大陸国権力層は、何故に社会理念が相反する隣接の小国を切捨てないのか?
自己の道徳規準と矛盾する体制を援助する理由を、大陸人民にどう説明し政策の継続を認めさせるか?
大陸の権力層は、この度の子である独裁者が孫に当る若者を突然に後継ポストに据えるセレモニーが公けになることに対して、相当に神経を逆立てているに違いない。
大陸国権力層が、この困った存在に支援を続ける背景はこうだ。
新大陸独善大国の正規軍が列島と廻廊半島南半に駐留し軍事的脅威が迫っていることから、この北半部は軍事緩衝ゾーンとして大陸にとって重要な役割を担っており、現在の秩序を維持したいのであろう。
北半部独裁者が開催しようとしている後継者指名の全国大会をセレモニーを報道中心から、どう隔離するかが、大陸国権力層の次なる作戦であった。
それを知る北半部独裁者は、対抗措置として尖閣諸島事件で拘留された船長の勾留延長や繰上釈放と重ねつつ、大会開催時期を微妙に延ばしている。
第8、大陸国権力層は、北半部後継指名をメディアの主役報道から極力骨抜きにしたかった。
大陸の国民大衆に対しても。
それには、もっと民衆受けする大きな政治ショウ=ニュースネタでもって盛上げる必要があった。
第9、このような場合、最も仇役のサンドバッグとして叩きがいのあるのは、悪名の定番=列島国であり、燃料資源を抱える尖閣諸島絡みであったのだ。
今日はこれまでとします