閑人耄語抄−23

No.23  うす雲の   菅平湖の  雪月花
 〔自註〕 予期せぬ出逢いがあるから人生は良い。浅間サンラインなる脇往還がある。国道18号と併走する、と言うより、その部分しか走ったことが無い。序でだから少し説明しておく、18号は佐久市から長野市の南端まで、信濃川の東岸をほぼ併行する。課題は信号機と走行車両が過多であることだ。サンラインの方はそれが無い。課題はもちろんあるが、それは、概ね山裾を走ることだ。アップダウンが激しく、燃料消耗が激しいこと、冬期凍結時の危うさだ。いずれを採るか?それは読者次第である。川と並走する道は、どこでも平坦なもので、加減速も少なく、眺望もまた広いことが多い。緑の堤防や、時々橋の上から見る清流の清白もマイナスイオンもまた良い。山裾の道もまた良い。ハンドルが忙しいくらい、見透しが効かないといかにもドライヴした充実感、これはつまりスリルなのだが、を味わえる。登り坂で見下ろす麓の街の夜景とか、峠に立って観る雄大な山並みと白い雲のアオテヤ、、、
サンラインをとおみ地内で別れて更に山道に向う。これを地元の民は、「ゆうりょうどうろ」と呼ぶ。群馬県境の鳥居峠に向うショートカットである。しかも、分岐し菅平高原を経由して、須坂地内に達するルートでもある。
菅平湖「すがだいらこ」は、高原に向う上り道中にある。人工湖らしい。地形が複雑だからであろう、湖面の出入りが激しい。ハンドル操作がはげしくなるような湖岸道路をよく造るものだと想う。きっと湖を造るついでに道をただ付けただけ、そんなカーブだ。急に視界が開ける、標高は約1,000メートル、道の先菅平高原はスキー場で高名、三拍子揃っている。
と、そう道路凍結が招く横転トラブルの原宿?だ。しかも、丁寧なことに迂回路が無いことになっている。
ペケ・ロードには、決まって出るものがある。雪女か、水女かが出る。
これは、ペンションオーナーから直に聞いた話しだ。道端に立つ美女を無視して、一心不乱に走り抜けても、そのお方は後席に座ってしまっているのだそうだ。ここまで来て、しまったと想う。ユキ女か、ミズ女かとなると、同一人格が季節感によって装束を替えるのかも知れないし、異なる人格であるかも知れない。オーナーの表情が、あまりに真剣だったから、ストーリーに終始乗ってしまったようだ。今度会った時に確かめるとしよう、、
二人乗車の車が水面に落ち、ドライヴァーは脱出して一命を保った事に由来するのだそうだ。だから、「水おんな」なのであって、水がしたたるのはリーズナブルかつ不可避だが、そのアトに「いい」が続くかどうか、これもまた読者の選択に委ねたい。なんせ長野県内だから、、、、

さて、句の意味は、こうである。雪が無い時季は、よく霧が出る。こんなカーブをよく作るものと腹が立ちながら、曲がり終わりストレートに向けてアクセルを踏む。一瞬サァーッとキリが晴れた。その先の少し見上げる位置に、かすかにあお白い丸いものがある。その右には、更に薄い色合いのくすんだような白に近いものが見える。同乗者に告げようとした時には、再びキリがサァーッと走り込んだようだった。すぐに次のカーブへとハンドルを切りながら、考えた。
そう、答は満月が見えた。そして、その横に見えたのは、浅間山であろう。
時は、2009年5月8日の夕刻である。満月の頃である。
この頃、浅間山に残雪は確実にある。菅平湖周回道路のうち数カ所から、山の中腹以上か山頂付近が展望できる。月に雪が揃う。
花は、湖水周回道路沿いにオオヤマザクラが植えられたものが咲いていた。
菅平高原の麓にあたる上田城址の夜桜は有名だが、菅平湖の桜はさらに1ヶ月半ほど遅れて満開になるのだ。