閑人耄語抄−8ならびに9
No.8 古代染め 匂いゆかしき フジの花
〔自註〕 フジの花が咲いている。目立たない花色だが、思わぬ高さに纏まって咲く花群を、時に山路を歩いていて、ふと気がつくことがある。
公園や神社でも見かける花だが、蔓で伸びる性格の木だからか、中心には無い。概ね藤棚は隅の辺に設けられる。花色も地味だが、その占める位置もまた似たような役割らしい。その昔、フジの根元には、水があると、聞いた。水脈の存在を知らせる木らしい。そのことはまた、人が植えても容易には活着しない、気難しい花であることを意味するようだ。
古代染めとは、花色から浮んだイメージに過ぎない。具体的に、かつてどこかの展示会で、そのような色の古代布残欠を見た記憶が蘇ってきたわけではない。匂うもまた、古い時代においては眼に映る感覚のことであったらしい。
フジなる耳感覚は、富士の山に通ずる。遠くに聳える高い山は、なべて、なぜ、あのような心落ち着かせる色に見えるのであろうか、、
フジ色は、遠い昔や遠い山を思わせる。そして、その背景には、さらに広大な青空がある。白フジは白い雲かな、、、、
No.9 薄く濃く 釆女の袖を 想わする
〔自註〕 同じころに咲く花にスイートピーがある。サヤエンドウか、その類と思い込んでいるが、自信が無い。食べる豆を開花から結実まで、気長に観察したことが無いから、おそらく誤りだろう。観賞系と食糧系とが同じか別か、その差はタイトからアバウトまで人により大きいであろう。
淡いピンクから白無地まで、微妙な染めムラ?らしい配置が実に良い。
釆女は、ここではウネメと発音し、万葉集の時代の女性である。もちろん、出会ったことは無い。絵画か挿絵から受けた記憶だろうが、古代の女性は袖繰りが大きくて長い上着を着ていた。そよそよと吹く初夏の風を拾って、ひらひらとよく揺らぐ、ゆらゆらは恋愛のいめーじである。釆女は、古代においては、各地方から神に仕える役割をもって、都に派遣され、最も華やかな人生の短い時期を遠い都で暮らした、言わば宮廷官女に近い存在であったろうか?陳腐な言い回しではスター的要素を持つ女性であって、可視的なり文字化可能な基準があるわけではない。いつの世も、どこの土地でも、神に仕える女性は、魅力を備える格別の存在であったのだ。