+<菅の岼アンソロジー3>
 3、冬の散歩は、出立ちがものものしい。自動記録式の外気温度計がプラスゾーンを示すことは1ヶ月のうち1日あるかないかである。
 真冬日の散歩に出かける気だ。玄関の扉は二重になっている。内側はログハウスのドアで、冬の間は居住ゾーンの室温が15℃以上を保つようにしている。外側は風よけ室ユニットのドアで、金属枠と大きなガラスの面から成る。ガラスの中に向いの風景があるかどうかが実は関心事なのだ。ガラスの透明度は概ねその日の気温に比例することに互いが気づき間もなく夫婦の話題になった。
 ガラス面全面に花が咲いている時は、覚悟して散歩に出るか、時に部屋に戻って首巻を追加して三重巻きにしてから出ようか、となる。それからドアとドアとの間ではたちまち体温が奪われるので、急いで靴を履いて風よけ室から外に出る。
 眼の高さ以上に向いの木々が見える時は、外気温は0℃に近いマイナスゾーンだな、今日は風が無くて暖かいぞと当りをつける。それでも、ここは寒い、眼の高さから下に広がる『水の塊が造った紋様』を眺める気分にはなれない。
 ガラス窓は、その日その時の外気温と北風の強さに応じて全面透明から部分磨りガラスを経て全部すりガラスへと刻々姿を変えているようだ。これは大発見とばかりに具に観察をし写真に撮ろうと思った、、、、思い断ったのだった。風よけ室はあまりに寒過ぎるのでその構想は将来の課題とした。写真撮影の技術も相当に備えつつ、しかも現場での特別の工夫が必要だろう。
 おそらく自然の水はガラス窓の下の方から上へ上へと這い上がりつつ、時を移さず個体になり、無限に連続するフラクタル紋様を描く。このさまは何度かの瞬間観察を重ねた後に、きっとこうであろうと想像して書いているに過ぎない。継続的に観察しての報告ではなく、頭の中でそらに描いているに過ぎない。
 フラクタルは大きい模様も小さい模様も同じパターンで、しかも切れ目なく続いているようだ。隅の方に、おや、どこかで見たことのあるパターンがあるぞ。そうだ、六弁の花だ。旧制新潟高校の校章の六華だ。さっと見ると雪印のマークの類が色々ある。大発見は取消す事態に。中谷宇吉郎博士が最初に切開いた分野だ。
 この風よけ室に雪は降込まないが、ドアの下から忍び込む。僅かな隙間を押し入る。北風は水蒸気を十分に含んでいよう、風よけ室の中で安住したつもりでもやがて気温低下の夜更けが来る。すると、水風クンは。その環境の下で取るべき氷なり雪なりの固体に変態するのであろう。